忘却録音

”どうして、泣かないの?”
”うん、どうしてだろうね”
困ったような顔で、兄はわたしを見下ろす。
瞳はまだとても悲しげで、だからすごく優しかった。
”男の子は、泣いちゃダメだから?”
父の言葉を思い出して訊いてみても、兄は首を振るだけだった。
”ねえ。なんで泣かないの?”
”うん。泣きたくても、泣けないんだ”
―――それは、特別な事だからね。